動物生態学研究室
Laboratory of Animal Ecology
Graduate School of Science,
Kyoto University
研 究
Research
(最終更新日:2005年4月12日 )
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当研究室では,堀 道雄(教授),曽田貞滋(助教授),渡辺勝敏(助教授)およびポスドク研究員,大学院生ほかにより,動物の個体群生態学および生物群集の多様性進化・維持機構の解明のための研究を展開しています.以下にそのあらましを紹介します.


プロジェクト・研究プログラム(→曽田渡辺

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フィールドワーク

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プロジェクト・研究プログラム


水生動物群集における左右性の動態と多型維持機構(堀)

タンガニイカ湖産シクリッドの鱗食魚(スケールイーター)において発見した左右性は、その後、すべての魚類に共通に見られる現象であることがわかった。すなわちどの個体群も口の歪みで判定できる右利きと左利きの個体からなり、その比率は0.5を中心に数年周期で0.3〜0.7の間を振動しているという現象である。この左右性は遺伝形質であり、メンデル遺伝をするらしい。各個体群での比率の振動は、群集内の種間相互作用、特に捕食-被食関係によって生じる。すなわち、餌の捕食または敵への防衛に関して少数派の利きの個体が利益を得ること(頻度依存選択)によって適応度を増し、次世代には多数派に転じるというメカニズムによる。また、右利きの捕食者は主に左利きの被食者を、左利きはその逆を捕食するという交差捕食が一般的な現象であることも発見した。この現象を、形態学、遺伝学、行動学的観点からの掘り下げるとともに、群集内における多型の維持機構のモデルとして、様々な水生群集における左右性の動態を探究している。さらに左右性は、甲殻類(エビ・カニ・ザリガニ)、軟体動物頭足類(イカ・タコの仲間)にも見られることが分かり、現在はそれらの動物群集での左右性のあり方も院生や共同研究者とともに調べ始めている。

Hori (1993) Science 260, 216-219
Takahashi & Hori (1994) Am Nat 144, 1001-1020
Takahashi & Hori (1998) J Theoret Biol 195, 1-12
Seki et al. (2000) Zool Sci 17, 1321-1325
Nakajima et al. (2004) Am Nat 163, 692-698 
堀 (2001)  in 佐藤ほか編, pp. 257-283. 群集生態学の現在. 京都大学学術出版会

タンガニイカ湖における魚類群集の構造と多種共存機構(堀)

アフリカの大地溝帯に位置する古代湖タンガニイカ湖において、1979年以来、日本人研究チームがシクリッド(カワスズメ科)群集の生態研究を続けている。その一員として主に摂食生態を中心とした種間相互作用および群集構造を探究してきた。現地での潜水調査による行動観察・長期センサス・野外実験・サンプルの胃内容分析などによって、この群集が多様な種から成る複雑な種間関係で繋がりながら、きわめて安定した構造を維持していることを明らかにした。最近は、この調査の過程で発見した左右性を代表とする種内多型の維持機構とともに、多種の共存機構と多様性の生成・維持機構を中心に研究している。また、共同研究者とともに分子マーカーなどを用いた系統関係・種分化機構も探究している。

Hori (1991) Ecology Internatinal Bulletin 19, 89-101
Matsuda et al. (1993) OIKOS 68,549-559
Hori et al. (1993) Conserv Biol 7, 657-666
Matsuda et al. (1996) Evol Ecol 10, 13-28
Hori & Watanabe (2000) Env Biol Fish 59, 111-115
堀 (編著) (1993) シリーズ地球共生系6:タンガニイカ湖の魚たち. 平凡社
堀 (2000) in 日高敏隆(編), pp. 22-35. 水と生命の生態学 (講談社ブルーバックス). 講談社

ハンミョウ類生態と進化についての研究(堀)

昆虫少年の時から好きだった甲虫、ハンミョウについて、その生態・種間関係・生物地理・系統分類・進化の研究を続けている。学部の卒業研究では山地でのハンミョウ2種の棲み分けについて調べた。その過程で個体群研究の必要性を痛感し、大学院ではナミハンミョウの個体群動態を徹底した個体追跡の手法で研究し、学位を取得した。幼虫が待ち伏せ型の捕食者であるハンミョウは、餌がどれだけ捕れるかによって個体の成長期間がまちまちで、生活環はきわめて融通性に富んでいること、幼虫期と成虫期のさまざまな段階での密度効果によって個体群は何年にも渡ってきわめて安定していることを明らかにした。その後、日本および世界のハンミョウ類の蒐集と分類学に手を染めたが、最近は院生との共同研究として、幼虫期の密度効果の働き方、日本産ハンミョウ類、特に海浜性ハンミョウ類の共存機構と生物地理を探究している。

Hori (1982)  Physiol Ecol Japan 19,77-212
Hori (1982) Cicindela (Kansas) 14, 19-33
堀 (1987) in 佐藤編,pp. 14-22. 日本の甲虫. 東海大学出版会
Hor &Cassola (1989) Jpn J Ent 57, 504-516
Satoh et al. (2003) Popul Ecol 45, 67-74
Satoh et al. (2004) Mol Ecol 13, 3057-3069
Satoh & Hori (2005) Ecol Res 20, 143-149

節足動物の繁殖形質の進化と種分化過程(曽田)

昆虫の交尾器の形態的多様性や,性フェロモンとして使われる体表炭化水素の成分組成の変異は,生殖隔離への効果を通してその著しい種多様性と密接に関連している.日本列島内で15種に分化し,複数種の共存が広く見られるオオオサムシ亜属を用いて,交尾器形態の遺伝的基盤についてのQTL(量的形質の遺伝子座)解析と,体表炭化水素の配偶者認識における機能と進化様式の解析を行っている.これらの研究は,大学院生が中心になって進めている.また関連した研究として,ババヤスデ属の交尾器進化と種分化,ヒメハナカミキリ属の体表炭化水素による配偶者認識と系統進化についての研究を共同研究として行っている.

オオオサムシ亜属の種間交雑と群集形成過程(曽田)

局所的な種多様性は,種分化後の種の共存によって増加する.分化した種間の2次的接触では,種間交雑や資源をめぐる競争が起こり,2種の共存の可否やその後の形質進化に影響を及ぼす.種分化から共存にいたる近縁種群集の形成過程で,交雑を含めた種間相互作用がどのような役割を持っているかを明らかにしようとしている.オオオサムシ亜属を研究対象として,核・ミトコンドリア遺伝子塩基配列データを用いた分子系統・系統地理・浸透交雑パターンの解析,種間交雑帯の解明と種間交雑の実験的解析,群集の体サイズ分布の解析による共存パターンの解明などを行ってきた

Kubota & Sota (1998) Res Popul Ecol 40, 213-222
Sota & Kubota (1998) Evolution 52, 1507-1513
Sota et al. (2000) Biol J Linn Soc 71, 297-313
Sota et al. (2000) Popul Ecol 42, 279-291
Sota et al. (2001) Mol Ecol 10, 2833-2847
Sota (2002) Popul Ecol 44, 145-156
Sota & Vogler (2003) Mol Phylogenet Evol 26, 139-154

日本と東アジア大陸部における昆虫の系統地理

日本列島の昆虫相はどのように形成されてきたのだろうか.また東アジアの大陸では日本産の姉妹群がどのように分化したのだろうか.分子系統樹よび系統ネットワークを基にしたnested clade analysisを用いて系統地理学・歴史生物地理学的研究を行っている.地理的分化が著しいオサムシ類,湿地に生息し化石記録も豊富なネクイハムシ類の他,湿地性のオオルリハムシ,渓流・湿地のダビドサナエ属などいくつかの分類群を対象にし,個々の分類群の系統地理を明らかにするだけでなく,分類群間の比較によって日本列島・東アジアの昆虫相形成の概要を明らかにしようとしている.

Sota et al. (2004) Entomol Sci 7, 381-388
Satoh et al. (2004) Mol Ecol 13, 3057-3069

分子系統学的アプローチによる種多様性形成過程の解析(曽田)

ひとつの系統群内の種多様化は,地理的分化だけでなく,生態的な多様化とも密接に関連している.その多様化過程を系統樹上で再現し,多様化を促進する要因を探る.これまでにユーラシアのオサムシ亜族,世界のマルハナバチ属,オーストラリアのオーストラリアオサムシ属について,主に核遺伝子の塩基配列を用いた分子系統解析を行い,地理的分化・生態的分化と種分化の関連を解析してきた.

Kawakita et al. (2003) Mol Biol Evol 20, 87-92
Sota & Ishikawa (2004)  Biol J Linn Soc 81, 135-149
Kawakita et al. (2004) Mol Phylogenet Evol 31, 799-804

希少淡水魚ネコギギの個体群動態と集団構造(渡辺)

河川中流部という撹乱の比較的大きい環境に生息する生物の個体数変動のパターンや要因を明らかにするために,希少淡水魚ネコギギを対象にして,個体数や生活史の調査や,遺伝マーカー(マイクロサテライトDNA)を用いた調査などによって,長期的な研究を行なっている.ネコギギはナマズ目ギギ科の淡水魚で,伊勢湾周辺域の河川のみにすむ種である.ある河川のネコギギ個体群について,10年以上にわたり,野外調査・遺伝分析を行なってきた.

その結果,本種は河川の緩流部にパッチ状に生息し,定住性が強いことが明らかになった.そのことに加え,河岸の間隙を利用した隠れ家で,一部の優位な雄のみが繁殖を行なうことなどのため,数十〜数百mの流程スケールで,パッチ間には遺伝的な偏り・構造が見られることが明らかになった.このような集団構造をもつ種の個体群動態の特徴や遺伝的多様性の維持・減少機構,またそれに対する人為的影響について,研究を続けている.

Watanabe (1994) Jpn J Ichthyol 41, 243-251
Watanabe (1994) Jpn J Ichthyol 41, 15-22
渡辺・伊藤(1999)魚類学雑誌 46,15-23
Watanabe et al. (2001) Mol Ecol Notes 1, 61-63

東アジア地域における淡水魚類相の形成プロセス(渡辺)

日本列島は東アジアの東縁部に位置し,約2000万年前から形成され始めた.そのため,日本列島の生物は大陸部のものと深い類縁関係があり,その類縁関係を探っていくことにより,生物相の形成の歴史について理解を深めることができる.純淡水魚は基本的に陸水系のみを通じて移動するため,その分布は地形の変化や氷河期の海進・海退の影響を強く反映していると考えられる.私は,ナマズ目ギギ科魚類をはじめとする淡水魚類の系統進化を,形態,化石,ミトコンドリアDNAなどの分子遺伝データを総合的に用いて明らかにし,現生種がどのような時間スケールで進化し,分散してきたのかについて研究を行なっている.

これまでの研究の結果,東アジア地域に生息する約40種のギギ科の1グループのなかで,伊勢湾周辺に遺存的に分布するネコギギは日本列島の形成が始まった頃に分岐した古い系統の生き残りであることが明らかになった.また日本産の4種が異所的な分布を示すに至った歴史的なプロセスの一面が明らかにされた.コイ科魚類,イトヨ類などについても同様な研究を行なっている.


Watanabe (1998) Ichthyol Res 45, 259-270
Watanabe & Uyeno (1999) Ichthyol Res 46, 397-412
Watanabe (2000) Ichthyol Res 47, 43-50
Watanabe & Nishida (2003) Ichthyol Res 50, 140-148

淡水魚類の系統地理と保全遺伝学(渡辺)

生物の「種」は一般に多数の個体群(集団)を含み,その個体群間の関係や個体群内の多様性の大きさについて調べることにより,その種が経てきた歴史を推定・推察することができる.近年,分子(DNA)マーカーを用いた系統地理学という新しいアプローチにより,そのような研究が盛んに進められつつある.また同様の方法により,人間活動が野生生物に与えている悪影響やその低減策についても深く考察することができ,保全遺伝学という分野が発展しつつある.

日本および東アジア地域の淡水魚類を材料にして,そのようなアプローチで研究を行っている.ミトコンドリアDNAの塩基配列やマイクロサテライト多型データを用いて,(1) 紀伊半島山間部に生息する世界最南端のイワナ個体群である“キリクチ”の河川集団間の遺伝的分化や放流魚との交雑,(2) 湧水地にすむハリヨの人為的な生息地の分断と遺伝的多様性の減少の関係,そして (3) 伊勢湾周辺域の純淡水魚類相の成立,などを主な課題として研究を進めている.「進化する実体」としての生物種のあり方を集団遺伝学的な方法から描き出し,希少種,ひいては生物多様性の保全に貢献できる研究を目指している.

Watanabe et al. (2003) Zool Sci 20, 265-274
Kubota & Watanabe (2003) Ichthyol Res 50, 123-128
渡辺・西田(2003)in 小池・松井編,pp. 227-240.保全遺伝学.東京大学出版会

佐藤・渡辺(2004)魚類学雑誌 51, 51-59

中国南部の洞窟性コイ科魚類の系統進化と集団構造(渡辺)

中国南部雲貴高原(雲南省,貴州省,広西壮族自治区)には大洞窟地帯が広がっており,さまざまな程度に洞窟環境に適応したコイ科Sinocyclocheilusが多様化している.中国科学院動物研究所との共同研究として,本属魚類の分子系統・集団遺伝構造をmtDNAやAFLPを用いて解明し,種形成や洞窟適応パターンについて研究を行っている.

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フィールドワーク

2004年
2004/10−11 ザンビア(ムプルング),タンガニイカ湖:シクリッド科魚類の多様性の進化機構

堀 道雄・竹内勇一(D1)


2004/9 中国(雲南省):オサムシ類の分子系統地理 曽田貞滋

2004/8−9 台湾:東アジアの淡水魚類,特にギギ科魚類の生物多様性の起源と進化 渡辺勝敏

2004/6 中国(広西壮族自治区):オサムシ類の分子系統地理 曽田貞滋・張 愛兵(PD)

2004/6−8 琵琶湖における魚類採集(エリ,刺し網など)
堀 道雄ほか

研究内容へのご質問は,各人によろしくお願いします

曽田
渡辺

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